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HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ HOME 読み物一覧 金太の花 第3号 2023年,9月号 2023/10/02 金きん太たの花 おぎなお紺こん 物語 入選作品 入選 「金太、おい、金太。」 呼よびながら、何度も体にふれる。そのたびに、金魚の金太はぴくぴくと背せびれをゆらし、苦しそうに口を動かした。だけど、またすぐに動かなくなる。 もうだめだ......。 やがて、金太は、ぴくりとも動かなくなってしまった。 昨日、お母さんにしかられて、久ひさしぶりに水すい槽そうを洗あらった。ガラス面にこけが生え、ポンプもぬるぬるになっていた。 でも僕ぼくは、友達との約束があったから、丁てい寧ねいになんか洗わなかった。ちゃちゃっとやって、それでおしまい。 そしたら、今朝、金太は水槽のいちばん上でぷかぷか横になって浮うかんでいた。 あっと思って調べたら、水槽に空気を送るポンプのスイッチが切れたままになっていた。洗った後で、入れるのを忘わすれてたんだ。 あわててスイッチを入れたけど、もう、手て遅おくれだった。「あーあ。しんじゃった。」 弟の優ゆう介すけが、水槽をのぞいてつぶやいた。優介はまだ小さいから、たぶん、死ぬってことが分かってない。「すてる?」「捨すてねえよ!」 分かっていても、能のう天てん気きな優介の言葉にかちんとくる。「おにいちゃんが、おこったあ。」 優介はべそをかきながら、キッチンへ走っていく。ちぇっ。「お墓はか、作ってあげようね。」 お母さんが、優介と話している声が聞こえる。「おはか、おはか。」 何だか楽しそうな優介に腹はらを立てながら、僕はのろのろと動きだす。 庭に穴あなをほり、金太を土の上に置いた。 何だかとっても苦しそうな顔に見える。 そうだよな。息ができなくて死んだんだもん。ごめん金太。 心の中で謝あやまりながら、ゆっくり土をかけていく。優介がじょうろを持ってきて、金太のお墓に水をやり始めた。「おおきくなあれ、おおきくなあれ。」「花の種じゃないの。 金太は死んだの。」 僕が言っても、優介はやめない。「おおきくなあれ、おおきくなあれ。」 優介の歌うような声が、庭に響ひびいた。 そして。 次の日、本当に芽が出ていた。 まさか。偶ぐう然ぜんだ。そのへんの雑ざっ草そうの芽が出たに決まってる。「きんたのおはな、おおきくなあれ。」 優介が、また水をやる。 どうしよう。本当に金太の花が咲さいたりしたら。畑のトマトみたいに、金太がたくさんなったりしたら。 のんびりした優介の声とは反対に、僕は動けなくなる。  その日から、金太のお墓の芽は、ぐいぐいと大きくなった。小さかった葉が地をはうように何なん枚まいも広がり、その中央の細い茎くきが、少しずつ背をのばしていく。 やがて、茎の先がぷっくりとふくらみ、ほんのりとオレンジ色になってきた。 金太の花のつぼみ。 もし本当に金太が出てきたら......。 苦しそうに口をぱくぱくしていた金太。黒い目が半分くさったみたいに白くなっていた金太。最後は、ただ横になって、ただようだけだった金太。 僕をうらんでいるだろう。おまえのせいだって、怒おこっているだろう。金太の花が咲いたら、きっと僕をにらむだろう。もしかしたら、呪のろいの言葉を吐はくかもしれない。「おおきくなあれ。おおきくなあれ。」 優介が、楽しそうに水をやる。「......やめろよ。」「いやだ。」「やめろってば。」 僕は、優介のじょうろをうばい取って放り投げると、庭から飛び出した。  金太は、一年前のお祭りですくった金魚だ。 とてもかしこくて、えさの準じゅん備びをしていると、僕のそばへ寄よってきた。お父さんやお母さんがえさをやっても知らんぷりだったのに、僕のときだけそばに来た。スナック菓が子しをやったら、一度口に入れてぺっと出す、味の分かる金魚だった。 お父さんにねだってポンプ付きの水槽を買ってもらった。最初は水槽を洗うのが楽しかったのに、だんだんめんどくさくなった。重いし、冬は冷たいし。そのうち、ふんが水中に浮いていても、ガラス面にこけが生えても、気にならなくなっていった。 死んだのは、たかだか金魚じゃないか。お父さんやお母さんが死ぬのとはちがう。犬や猫ねこが死ぬのともちがう。もっと小さい生き物。 たかが金魚。 お父さんやお母さんだって、虫を殺ころす。蚊かとかゴキブリとか。パチンといとも簡かん単たんに。 それと同じでいいじゃないか。僕が殺してしまったのは、たかが金魚だ。それも、殺そうと思ってやったんじゃない。ミスだ。 そう思っているのに、金太の花が大きくなるにつれて、僕は苦しくなっていった。金太の花が咲くのが、怖こわくてたまらない。 気がつけば、神社の前にいた。そういえば、明日がお祭りだ。 広い参道には、木の枝えだを刈かる人やそうじをする人、屋台を組み立てる人など、準備をしている人がたくさんいた。 僕は去年、ここで金太と出会った。 行くあてがあるわけではなかったけれど、とぼとぼと参道を進んだ。まだ何屋なのか分からないむき出しの屋台が、いくつも並ならぶ。明日に向けて、神社全体がわくわくと活気づいているような気がして、僕はうつむきがちに歩いた。 木の幹みきに、大きな水色の水槽が立てかけてあるのが見えた。 あれは、金魚すくいの水槽だ。 僕は足を止めた。それから、ゆっくり水槽へと近づいていく。「おい、ぼうず。祭りは明日だぞ。」 屋台を組み立てているおじさんが、声をかけてきた。僕はそのまま水槽の前に座すわりこんだ。「おいおい、いくら待っても、明日まで金魚は届とどかんぞ。のら猫に食われちまうからな。」 僕は、ゆっくりとおじさんに顔を向けた。「ねえ、金魚屋さん。金魚は、猫に食われて死ぬのと人間に殺されるのと、どっちが不幸?」 おじさんは、「へ?」という顔をしたまま、僕をじっと見つめた。それから、持っていたドライバーを作りかけの屋台の上に置くと、小さないすを持ってきて、僕のとなりに腰こしかけた。「そんな難むずかしい質しつ問もん、もう少し、くわしく聞かなきゃ分かんねえなあ。」 僕の顔をのぞきこむおじさんの目が優やさしくて、僕は金太のことをぽろりと話した。 ほんの少しのつもりだったのに、話し始めたら、心につっかえていたものが全部出るまで、止めることができなかった。「ううん。」 おじさんは、頭をかきながら、ため息ともうなり声ともとれる声を出した。「そうだなあ。おれはこれが仕事だし、下手すりゃ、一日何十ぴきも金魚を死なせてしまうこともある。」 けどなあ、と言いながら、おじさんはゆっくりと腕うでを組んだ。「金魚に悪いなあとか、損そんしたなあとかは思うけど、苦しいと思ったことはない。それは、金魚が、おれにとっては仕事道具だからだ。」 僕は、ひざをかかえたまま、おじさんの言葉を待った。「おまえさんが苦しいのは、金太がおまえさんにとって友達だったからじゃないのかい?」「友達?」「そうだ。名前を付けて、話しかけて、仲良くしてたんじゃないのかい?」 それはそうだけど。でも、相手は金魚だ。 僕が口ごもっているとおじさんは続けた。「たかが金魚でも、友達は友達だろ。金太という一ぴきの友達。友達を自分のミスで死なせてしまったんだ。そりゃ苦しくて当然だよ。」 ああそうか。 僕は金魚を死なせてしまったんじゃない。「金太」を死なせてしまったんだ。「そういうときは、ああだこうだと理り屈くつをこね回したりしないで、悲しい、くやしい、申し訳わけないと泣いたらいいんだ。」 おじさんはそう言って、僕の頭をくしゃっとなでた。 そしたら、じわりと涙なみだが出てきた。「金太ごめん。」 小さくつぶやく。「金太ごめんな。」 ずっと心の中でしか言えなかった言葉が、口から出てきた。口から出たからって、死んだ金太に届くわけじゃない。でも、口に出さなくちゃいけない言葉だったような気がして、僕は何度も金太に謝った。  家に帰ると、優介が水をやっていた。「ちょっと貸かして。」 僕も、金太の花に水をやる。 たとえ、金太の花が咲いて呪いの言葉を吐いたって、僕はきちんと受け止める。たかが金魚なんて言葉で、もう逃にげたりはしない。「おはな、さく?」 優介が、そばに寄ってきた。「そうだな。咲くといいな。」 オレンジのつぼみが、そっとゆれた。 おぎなお紺こん 2023年、第1回「青いスピン」作品募集 入選。 読み物一覧へ戻る 関連作品 2024/04/12 カタメのこと 松まつ下した卓たかし 物語 入選作品 2024/04/12 言葉のない私たち 桜さくら井いかな 物語 入選作品 2023/06/22 自動販売機 香か久ぐ山やまゆみ 物語 入選作品 2023/05/31 第1回「青いスピン」作品募集 結果発表 お知らせ カテゴリー 物語 (14) エッセー (10) 科学エッセー (4) 随筆 (5) イラストエッセー (5) ノンフィクション (4) コラム (9) お知らせ (3) 入選 (3)佳作 (2) 掲けい載さい号 第4号 2024年,4月号 第3号 2023年,9月号 第2号 2023年,4月号 創刊号 2022,9月号 創刊準備号 2022,4月号 人気の作品ランキング HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ プライバシーポリシー 本サイトに掲載している文章・イラスト・記事画像の無断転載を禁じます。 Copyright © 2022 by TOKYO SHOSEKI CO., LTD. All rights reserved.

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