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英語の授業への提言 東京大学名誉教授佐藤 学 佐藤 学(Manabu Sato) 先生 1951年生まれ。東京大学名誉教授。教育学博士(東京大学)。北京師範大学客員教授。日本学術会議第一部(人文社会科学)元部長。日本教育学会元会長。アメリカ教育学会(AERA)名誉会員。アジア出版大賞(APA)大賞次賞(2012年)。主要な著書が、中国語(簡体字)、中国語(繁体字),韓国語,英語,ドイツ語,フランス語,スペイン語,インドネシア語,ベトナム語,タイ語に翻訳されて出版されている。 1 なぜ,英語教育は混乱しているのか  すべての教科の中で英語教育は最も混乱している。アジア諸国の英語教育はすべて混乱し混迷していると言ってよい。世界33か国500校以上の学校を訪問し,英語教育を多数参観してきた実感である。  最初に日本人が英語を学ぶ困難がどこにあるか,考えておこう。まず発音である。日本語の音韻数は100以下で世界の言語の中でポリネシア語についで少ない。英語の音韻数は1,000以上(中国語は2,000以上)である。音を峻別する感覚のチャンネルが10倍違っている。日本人がリスニングを苦手にしているのは当然である。もう一つの違いは表現の違いである。I am a cat.を日本語で表すと100通り以上の表現が可能だろう(漱石はすごい)。英語は文法が最も単純な言語であるのに対して,日本語は表現が最も複雑な言語である。英語による表現が単純なのではない。英語の表現の複雑さは,言葉のニュアンスと文体と文脈によって表されている。英語の学びは,言葉と文体のニュアンスを文脈において理解し,的確な言葉と文体で文脈を構成して表現する学びなのである。  英語教育が混乱するもう一つの理由は,英語教育の言語観にある。「道具技能説」と私は呼んでいるのだが,英語を「道具」とみなし「スキル」の訓練(暗記)で習得が可能とみる考え方である。この「道具技能説」はアジア諸国の英語教育に顕著である。  この方法の限界は,中国の英語教育に端的に示されている。中国では20年前から都市部では小学校1年から週4時間英語が教えられ(農村部では小学校4年から),高校までに日本の3倍近くの時間が英語の授業に費やされている。英語塾に通っている子どもが日本より圧倒的に多いことも考慮すると,中国の子どもが英語教育に費やしている時間とエネルギーは,日本の子どもの3倍以上だろう。実際,中国の小中学校で英語授業を参観した日本人は,子どもたちの英語レベルの高さに驚嘆する。  しかし実態は悲惨である。中国で街角の若者や大学生に英語で語りかけてみてほしい。ほとんど通じない。トップレベルの大学の学生や院生であっても,日常的会話は巧みだが,内容のある会話は無理だし,英語文献となるとほとんど理解することができない。ベトナムや韓国や台湾でも小学校から英語教育を行っているが,同様である。中国,韓国,台湾,ベトナムでは大学教授でも,英語で議論ができるのは,英語圏の大学と大学院に長年留学した人たちだけである。なぜだろうか。  アジア諸国の英語教育の失敗の最大の要因は,英語を「道具技能」とみなし「暗記」による学びを行っていることにある。動物における「模倣による学び」(刺激と反応)は長期記憶になるが,言語の能力を獲得した人間は,動物のような刺激と反応(暗記)で学ぶ能力を退化させており,「暗記」による学びは短期記憶にしかならない。人間の学びにおいては,言葉の意味と関係を構成する学びでなければ有効に機能しないのである。人間にとって言語は「道具」でも「技能」でもなく「文化」である。外国の文化を学ぶことをなめてはいけない。英語(外国語)の学びは,暗記やスキルのトレーニングで達成できるようなしろものではないのである。  英語教育で成功している国は,オランダ,フィンランド,スウェーデン,デンマーク,ドイツだろう。これらの国では,一般の人でも英語で会話し議論ができる。これらの国の共通することとして,中学校もしくは高校から第二外国語を学んでいることは興味深い。  アジア諸国で混乱を招いているもう一つの要因についても言及しておこう。現在,英語教育研究においてもっとも影響力が大きい理論は第二言語習得論である。この理論から学ぶことはとても多い。ただし,その限界も知っておく必要がある。第二言語習得論はもともと英語圏に移り住んだ移民の教育,つまり学校外の生活が英語であふれている国で成立した理論である。日本を含むアジアの多くの国の人にとって,英語は「第二言語」ではなく。「外国語」である。そして今なお,「外国語教育」の有効な理論は未確立である。 2 英語のテクストが抱える三つの問題  外国語教育にとってテクスト(教科書)は決定的に重要である。しかし,残念なことに現行の英語教科書はいくつも問題を抱えている。問題は三つ,①内容が乏しい,②英語表現として不自然である,③内容レベルが低すぎるという問題である。  一般的に言って英語教科書は,内容が薄くておもしろくないし,思考や探究を促すものになっていない。そのため,子どもたちが内容に夢中になって学ぶ姿を想像することは難しい。  英語の教科書の文章で問題なのは,文法的にはまちがっていないが,そういう表現はしないという文章が多い。文法的には正しくても,英語表現として不自然で真正(authentic)ではないのである。たとえて言えば,音程や和音が外れた音楽のようである。これでは外国語の学びにとってもっとも重要な言葉と文体のセンスが育たない。  この問題の根は深い。今から60年近く前,私が中学校で英語を学び始めたころ,二つの英語教科書が代表的だった。一つはNew Prince Readers, もう一つはJack and Betty である(中学1年で転校した私は,両方の教科書で英語を学んだ)。前者の最初の文章は,This is a pen.だった。私の疑問は,この文章はどういう場面で誰が誰に言っているかであった。目の見えない人にペンをわたしているのだろうか? 後者の最初の文章はもっとひどい。I am a boy.である。これはどういう場面で誰が誰に言っているのだろうか? これらの疑問は子どもながら核心をついていた。英語の学びで重要なのは文脈の学びなのである。教科書に「英語表現としておかしい」箇所があまた見られるのは,文脈にふさわしい言葉と表現が使われていないからであり,文体の表現になっていないからである。それこそが英語の学びでもっとも重要であるにもかかわらず。音楽教育の楽曲の音程やコードは外れてはならないし,名曲を学ばなければ音楽の真髄が学ばれないのと同様である。テクストが名文でなければ英語の真髄を学ぶことはできない。  英語教科書のもう一つの問題として内容レベルの低さがある。今の教科書で小学校から高校まで学んだとしても,せいぜい一週間の海外旅行ができる程度にとどまるだろう。簡単な指標として語彙数で示してみよう。現在の小中高校の英語教育の語彙数は3,900語である。私が学んだ時期の語彙数は中高で8,000語であった。私の父の時代は12,000語である。英語教育重視と言いながら,日本の英語教科書は年々レベルを落としてきた(ちなみに韓国は8,000語,中国は9,000語である。大学入試の英語語彙数は私の時代と変わっていないから,教科書ではとうてい到達しないことになる)。どの国の言語でも一般市民の語彙数は40,000語から50,000語,英語で何らかの仕事を行おうとすれば最低でも30,000語程度,専門用語や業界用語を含めれば50,000語は必要だろう(私の英語語彙数は専門用語も含めて約70,000語である)。3,900語では,将来の英語学習の入り口にも到達しないだろう。  この三つの問題,①教科書の内容が薄いため探究の学びにならない,②教科書の文章が文法的には正しくても英語表現として不自然で妥当ではない,③内容レベルが低いため,英語の初歩にしか到達できないという三つの壁をどう克服すればいいのだろうか。 3 真正のテクストによる学びへ  私が推進している「学びの共同体」の改革において,英語教育の上記の三つの問題は次のようにして克服している。「学びの共同体」の授業では,授業の前半を「共有の課題」(教科書レベル),後半を「ジャンプの課題」(教科書より高度のレベル)で組織し,この二つの学びを男女混合4人グループによる探究と協同の学びで遂行している。この「ジャンプの課題」を真正のテクスト(authentic text)を用いて学ぶのである。  小学校高学年あるいは中学校1年でも真正のテクストを使用することは可能である。お奨めは『スイミー』『どろんこハリー』『おてがみ』『はらぺこあおむし』などの絵本である。これらの絵本は内容がおもしろいだけでなく,言葉の選択,文体,文脈の構成において卓越している。これらのテクストでもっとも適した翻訳を行わせ,まるごと暗唱させる。あるいは文学の授業と同様,適切な発問を行って,英語で解答したり,英語で要約させるなどの活動をグループの協同で挑戦させるのである。未習の文法が含まれていても気にする必要はない。  中学2年以上になると,かなり高度のテクストが使える。ある学校では中学2年に「アナと雪の女王」の脚本とヴィデオを使い,テクスト翻訳,ヴィデオ視聴,テクスト暗唱を1年間毎時間グループ学習で行った。このテクストを翻訳し視聴し暗唱すれば,高校2年から3年レベルの英語に達する。県下で最底辺とされる高校の3年の英語の授業で,スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学卒業式で行った有名なスピーチ(14分)を同様の方法で行った。すべての生徒がヴィデオ視聴で理解し,ほぼ暗唱し語っている姿は感動的であった。他にもヨーロッパ諸国で普及しているCLIL(内容言語統合型学習)を実践し,数学,歴史,SDGs,スポーツなどに関するテクストで学んだ中学3年の英語の授業,グレタ・トゥーベリさんの国連スピーチをとりあげた中学2年の授業など,オーセンティックなテクストによって生徒たちが夢中になって学び合う実践事例は,いくらでもあげることができる。これらオーセンティックなテクストによる「ジャンプの学び」による探究と協同の学びでは,①どの生徒も英語の学びが好きになる,②言葉のセンス,文体のセンス,文脈のセンスが総合的に身につく,③学力の飛躍的な向上が達成できるなどの成果をあげている。ぜひ挑戦していただきたい。

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